2022年夏季大会 (125)

第125回 令和4年度 夏季大会

開催日・会場

2022年6月11日(土)・12日(日)
大妻女子大学 千代田キャンパス(〒102-8357 東京都千代田区三番町12)
○会場とZoomによるハイブリッド形式

 

大会プログラム

大会テーマ

日本文学の内なる翻案―平安朝物語の変容と転生―

 近年、人文学のさまざまな領域で翻案(アダプテーション)研究が大きな注目を集めており、日本文学をめぐっても、時代・分野を問わず、陸続と成果が挙げられつつある。日本文学、とりわけ古典文学は、単にそれじたいが読み継がれることによってのみ今日まで伝えられてきたのではなく、多様なメディアに翻案され、絶えず変容を繰り返しながら生まれ変わり続けることによって、その命脈を保ってきたのだといえよう。
 本テーマは、平安時代の物語と、演劇を中心とするその翻案作品との関係を、原作とその影響・享受という視座からではなく、双方向的で対話的なものとして捉えることによって、翻案という営みが日本文学の内部においてどのような役割を担ってきたのかに迫ろうと試みるものである。

コーディネーター/司会   大妻女子大学准教授 桜井宏徳

第1日 6月11日(土)

11:00~12:00

代表委員会 F332教室

12:15~12:45

委員会 F332教室

12:45~

会場 F332教室
受付(Zoom開場 13:00~)
学会代表挨拶 和洋女子大学教授 吉井美弥子
会場校挨拶 大妻女子大学学長 伊藤正直

13:45~17:30

シンポジウム

『伊勢物語』と謡曲―中世における業平の形象とその展開―

武蔵野大学准教授 岩城賢太郎

『伊勢物語』に取材する謡曲・能の作品は、中世の数多の『伊勢物語』注釈等における理解に基づいて創作されていることは、既に多くの先覚の説くところだが、例えば絵巻や絵本における『伊勢物語』の絵画的表現、或いは能のような演劇の立体的表現における業平の視覚的形象は、中世の『伊勢物語』理解や在原業平像をいかに反映しているのだろうか、またその視覚的形象は後代の文芸にいかに展開しているのだろうか。本報告ではその追跡と検討を行いたい。
 世阿弥自筆本『雲林院』に「夢中に伊勢物語のその品々を見せ給へ」とあるように、夢物語に『伊勢物語』をあらわすことはお伽草子の作品においてもなされたが、世阿弥の能『井筒』詞章に「さながら見みえし昔男の冠直衣」とあり、また世阿弥の娘婿金春禅竹作と考えられている能『杜若』詞章に業平や二條の后高子の「形見の冠唐衣」とあるように、能の作品に追慕される業平の面影は屡々、女面を着けた幽霊により、業平の冠なり衣なりを着した姿で再現される。歌舞の菩薩とも言われ、その両性具有性なども指摘される業平であるが、異性装という表現手法とも関わるのか、また初期歌舞伎の「業平躍」などにも影響したものか、『伊勢物語』の変容と再生の様相を、謡曲・能の業平像を基点に考えたい。


歌舞伎・浄瑠璃と『源氏物語』

明治大学准教授 日置貴之

 歌舞伎・人形浄瑠璃においては、特に近世中期以降には、『源氏物語』を題材として取り上げることは稀であった。その題材としての影の薄さは、例えば『伊勢物語』を利用した作品が脈々と生み出され続けたことと対照的である。一方で、近代以降には、『源氏物語』は、近世に生まれた演劇、特に歌舞伎の関係者にとっては、特別な意味を持つ題材となっていったように見える。1933(昭和8)年には歌舞伎役者による『源氏物語』上演(番匠谷英一作)が企図されたものの、警視庁による上演禁止命令によって頓挫した。そして、戦後、新築開場なった歌舞伎座において念願の『源氏物語』歌舞伎化(舟橋聖一脚色)が実現し、光源氏を演じた市川海老蔵(十一代目團十郎)の美貌に対する注目もあって、大好評を博した。その成功は、北條秀司ら他の作者による『源氏物語』脚色につながり、また、海老蔵の子・孫が同じ光源氏の役を演じ継ぐといった形で、記憶の継承が図られている。戦前・戦後を通して、『源氏物語』脚色には、紫式部学会などの関与の跡があり、また戦後には宝塚歌劇・映画といった隣接領域における『源氏物語』脚色との関係が窺える。そのような環境面にも注目しつつ、近世以降の各時代に『源氏物語』がなぜ脚色されなかったのか、あるいは、なぜされたのかを考える。


谷崎潤一郎と平安朝物語―起点としての『栄花物語』

静岡大学准教授 中村ともえ

 谷崎潤一郎と平安朝物語と言えば、『源氏物語』の現代語訳、いわゆる「谷崎源氏」が有名である。谷崎は『文章読本』(1934)の中で『源氏物語』の一節を試訳した後、創作をほぼ断って現代語訳に集中し、『潤一郎訳源氏物語』を完成させた(1939~41)。さらにこれを二度改訳もしている(「新訳」(1951~54)・「新々訳」(1964~65))。ただし、一連の現代語訳の以前も以後も、谷崎に『源氏物語』の翻案作品はない。
 一方で、谷崎が繰り返し翻案したのは、『栄花物語』『大鏡』といった歴史物語であった。『栄花物語』等に取材した戯曲『誕生』(1910)・『法成寺物語』(1915)にはじまり、『大鏡』等が伝える人物の挿話を取り入れた小説『兄弟』(1918)・『顕現』(1927~28)、そして『大鏡』を含む複数の物語の挿話を配列した長篇小説『少将滋幹の母』(1949~50)と、出発期から晩年に至るまで、谷崎の歴史物語への関心は持続している。
 今回の発表では、人物(特に作中には登場しない人物)にまつわる挿話の摂取と配置に着目し、谷崎が平安朝物語をどのように翻案したのか、その方法を明らかにする。『少将滋幹の母』に関しては、舟橋聖一の脚色による劇化にも触れる予定である。


「夢と生まれかはり」の物語の作成法―『浜松中納言物語』と『春の雪』とそのアダプテーション作品と―

東京医科歯科大学教授 木谷真紀子

 三島由紀夫『豊饒の海』の四巻『(一)春の雪』(「新潮」昭40・9~42・1)、『(二)奔馬』(「新潮」昭42・2~43・8)、『(三)暁の寺』(「新潮」昭43・9~45・4)、『(四)天人五衰』(「新潮」昭45・7~46・1)が、『浜松中納言物語』を「下敷き」(「私の近況―『春の雪』と『奔馬』の出版」《新刊ニュース》昭43・11・15)にしていることは、よく知られている。
 第一巻で松枝清顕によって記された「夢日記」を本多繁邦が受け継ぎ、清顕の生まれ代わりと思われる飯沼勲、ジン・ジャン、安永透とそれぞれの巻で出逢い、その時間の中でさまざまな物語が生まれていく、まさに「夢と生まれかはり」(「同」)がテーマとなった作品であるが、『豊饒の海』の中でも、『春の雪』だけが多くのアダプテーション作品を生み、単独で受容されている。単独で一つの作品として誕生させるということは、「生まれかはり」をどのように表現するかが課題となる。また、それらの制作者すべてが『浜松中納言物語』を通読しているとは思われず、三島由紀夫の『浜松中納言物語』に関する解釈をもとに、それぞれの『春の雪』を誕生させていると考えられる。
 本発表では、まず、三島由紀夫が『浜松中納言物語』をどのように解釈し、どのような文言を残したかを分析する。さらに映画『春の雪』(平17・10、東宝)を中心に、数作の『春の雪』のアダプテーション作品に対象にし、三島の『浜松中納言物語』の解釈がどのように作品化されているかを明らかにしたい。。

16:10~17:40

パネルディスカッション・総括

 第2日 6月12日(日)

9:30~

受付(Zoom開場 9:45~)

10:00~15:30

研究発表会 A・B 2会場

A会場 F332教室
10:30~12:00

八千矛神詠歌試論―染衣の表現を中心に― 國學院大學兼任講師 小野諒巳

アメノホヒ考 福岡女学院大学名誉教授 吉田修作

12:00~13:00

休憩

13:00~14:30

『在明の別』中宮の服喪―不義の子はどこに連なるのか 早稲田大学大学院研究生 柿嵜理恵子

「至高の禁」の系譜―夕霧と雲居雁の恋 学習院高等科教諭 伊藤禎子

B会場 F335教室
10:30~12:00

「可哀そうな」兄妹―夢野久作「ルルとミミ」 東京学芸大学大学院生 近藤花

時代閉塞と形式破壊―田山花袋「罠」の読まれ方― 和洋女子大学准教授 小堀洋平

12:00~13:00

休憩

13:00~13:40

武雄鍋島家資料・武雄市蔵「香調合法」について 佐賀大学地域学歴史文化研究センター特命研究員 田中圭子

14:50~15:50

研究発表奨励賞授与式 A会場 

総会
授賞式(全国大学国語国文学会賞/文学・語学賞/研究発表奨励賞)

  • 全国大学国語国文学会賞:泉谷瞬氏(近畿大学)
  • 文学・語学賞:本橋龍晃氏(立教新座中学校高等学校)
  • 研究発表奨励賞:柿嵜理恵子氏(早稲田大学大学院研究生)

閉会の辞
    大妻女子大学准教授 桜井宏徳