2023年冬季大会(128)

第128回 令和5年度 冬季大会

開催日・会場

令和5年12月2日(土)・3日(日)・4日(月)(4日の文学実地踏査は各自・各グループでお回りください)
和洋女子大学 (〒272-8533 千葉県市川市国府台2-3-1)
○会場とZoomによるハイブリッド形式で行います。  アクセス

*申込み締切:11月25日(土)

大会プログラム

大会テーマ

文学の〈キャラクター〉を通じた受容――その現象と機能――

 図像的であり、人格や身体性を想起させる〈キャラクター〉。現代の〈キャラクター〉に関連したコンテンツビジネスの隆盛は、文学表象やその享受のあり方にも大きく影響しています。近接する映像メディアや、出版や展示等の文学発信の文脈において、様々な文学に関連した数多くの〈キャラクター〉を確認することができるでしょう。
 〈キャラクター〉と文学の関連をめぐる議論も深まりを見せてきました。特にポップカルチャーや現代の文学を主たる対象としてきた議論に、古典文学と〈キャラクター〉との関連を再検討する試みが加わりつつあることは、議論の新しい局面を切り開いています。  
 文学と〈キャラクター〉をめぐる様々な文脈における議論を整理しつつ、ジャンルや領域を超えた形で、〈キャラクター〉が文学の受容や編成において果たしている機能について活発な議論を交わしていくことを試みます。

コーディネーター/司会  和洋女子大学准教授 佐藤 淳一

第1日 12月2日(土) 

11:00~12:00

代表委員会 東6-4教室  キャンパスマップ

12:15~12:45

委員会 東6-4教室

12:45~

会場 東6-2教室
受付(Zoom開場 13:00~)

13:30~

開会

学会代表挨拶 大東文化大学教授 藏中しのぶ
会場校挨拶  和洋女子大学学長 岸田 宏司

13:40~14:50

基調講演

漫画の魅力、キャラクターの魅力

漫画家 えすとえむ

14:50~15:00

休憩

15:00~17:50

シンポジウム

「方言キャラ」で読み解く日本語社会

日本大学教授 田中ゆかり

 キャラクター造形の主要なポイントに、キャラクターにどのような「ことば」を与えるか、ということがある。台詞で「キャラ付け」するには、〈標準語〉に独特の文末表現を付す、あるいは特定の非〈標準語〉変種を与えるという二つの方法がある。本報告では、後者のうち地域方言変種に由来するヴァーチャル方言によって造形される「方言キャラ」に着目し、主に戦後日本語社会における方言と共通語に関連した言語意識の変遷を読み解くことを試みる。ヴァーチャル方言とは、現実の方言(リアル方言)に由来する仮想の方言のことを指す。コンテンツ等に現れるヴァーチャル方言は、以下に述べるような観点から当該の言語社会の意識を読み解く手立ての一つとなる。たとえば、由来となる現実の方言変種は「どこ」の地域のものなのか、にはじまり、現実の方言からの乖離ならびに方言ステレオタイプとの結びつきの程度、さらにはその「方言」の働きなど、がそれである。一方で時代が異なれば、それらはうつろう。そのうつろいは当該社会の言語意識の変遷に重なる。以上のようなことから、報告者は、ヴァーチャル方言を身にまとう「方言キャラ」は、そのキャラクターが造形・共有された言語社会の意識を映す鏡の一つと捉える。「方言キャラ」は、文学から映画、テレビドラマ、マンガやアニメ、ゲームなど、身の回りにあまた存在する。ポップカルチャー界では、「方言」が「キャラ属性」の一つとして扱われるようにもなってきた。幅広いコンテンツに多彩な「方言キャラ」が存在すること、またそのことが社会において比較的自然に受け入れられていること、これらが日本語社会の特徴のひとつとなっていることにも触れる。


翻案作品と「ヒロイン」――宝塚歌劇における柴田侑宏作品を中心に――

獨協大学専任講師 平田彩奈惠

 たとえば『源氏物語』に登場するさまざまな女性について考えるとき、「ヒロイン」を明確に一人に定めることは困難であろう。正編の紫の上や藤壺、続編の浮舟だけでなく、切り取りようによっては玉鬘や末摘花などもヒロイン的存在として位置づけられる場合があり、多種多様な人物が挙げられる。
 こういった文学作品の翻案においてはストーリーの改変に付随したキャラクターの変容だけでなく、登場するキャラクターをどのように解釈しているか、改変しているかを主軸として考察すべき事例が多くみられる。とくに古典文学や前近代を舞台とした作品を扱う場合、キャラクターの大胆な改変によって現代の享受者にとって魅力的な人物になり、その作品のヒロインとして受け入れられる要素を持つようになる。
 本発表では宝塚歌劇における柴田侑宏の作品を中心として、文学作品の翻案における「ヒロイン」について考察してみたい。柴田侑宏(1932-2019)は宝塚歌劇団の脚本・演出家であるが、日本文学を原案・原作にもつ作品も多く手がけ、再演が繰り返されているものも多い。また、主役を男役とし、ヒロインにあたる娘役が基本的にはその相手役となる宝塚歌劇の作品の中で、柴田作品はヒロインの比重が相対的に大きいことも知られている。まずはこれらの作品におけるヒロイン像が宝塚歌劇で要請される一定の型にはめこまれていることを明らかにし、原作からの改変をふまえてヒロインらしさを付与するためにどのような要素を加えているか、あるいは削っているかを考察する。また、柴田作品以外の宝塚歌劇における翻案作品のうち特徴的なものや、宝塚歌劇以外の作品でアンチヒロインを取り上げているような興味深い事例にも触れつつ、ヒロインを通した文学作品の翻案の様相、キャラクターの再生産について考える。


「文豪」とライトノベル 

成蹊大学准教授 大橋 崇行

 二〇一〇年代以降に広がりを見せた「文豪」ブームの中心となったのは、朝霧カフカ原作・春河35作画による「文豪ストレイドッグス」(二〇一二年―)と、DMM GAMESが配信しているゲーム「文豪とアルケミスト」(二〇一六年―)だった。このブームでは、特に「文豪」と呼ばれる近代文学を中心とした作家たちをキャラクター化して物語世界の作中人物に据えていることに加え、近代の「文豪」たちが形作っていたホモソーシャルな関係性を、女性を中心とした読者、ユーザーがクィアに読み替えているという問題が、先行研究において指摘されている。
 一方で、二〇二三年九月に話題となったのは、KADOKAWAのライトノベルレーベルの一つである富士見ファンタジア文庫の編集部が主催する第三六回ファンタジア大賞において、零余子(おたんちん♡ぱれおろがす)「シン・夏目漱石」が「大賞」を受賞したことである。この背景の一つとして、富士見L文庫をはじめとするライト文芸と呼ばれる書籍群や、「小説家になろう」「カクヨム」といった小説投稿サイトにおいて、キャラクター化した「文豪」を作中人物とした小説が一つのコンテンツ群として定着していることが指摘できるように思われる。
 そこで本発表では、「文豪」を作中人物とするライトノベル、ライト文芸、ウェブ小説のテクストを分析することで、現代における小説メディアで編成されている「文豪」コンテンツのあり方について分析を行う。このことで、「文豪」ブームに関する従来の研究で指摘されてきたものとは異なる、キャラクター化される「文豪」の現代におけるあり方と、その拡散と変容について考えていきたい。

 

 

第2日 12月3日(日)

9:00~

受付(Zoom開場 9:15~)

9:30~16:10

研究発表会 A・B 2会場

A会場 東5-2教室(1号館3階)
10:30~11:50
  • 「播磨国御井隈人文石小麻呂」―雄略紀十三年秋八月条をよむ―
      東京都立大学大学院生  吉原美響
  • 感情の政治学――『萬葉集』の題詞より観たる感情表現――
      青山学院大学大学院生  西澤駿介
  • 『播磨国風土記』賀古郡「南毗都麻」の地名起源譚―「丸部臣等が始祖比古汝茅」を中心に―
      新島学園短期大学講師  佐竹美穂
  • 『文武二道万石通』における畠山重忠像
      学習院大学助教  古庄るい
12:20~13:20

休憩

13:20~16:10
  • メタバースを活用した新たな古典教材の開発と学習効果の検証
      大阪工業大学准教授  横山恵理 ・ 大阪工業大学准教授  矢野浩二朗
  • 火の中への献身  「地獄変」
      東京都立大学非常勤講師  落合修平
  • 宮沢賢治の拡張するキャラクターたち~ジョバンニ・カムパネルラ・ザネリを中心として 
      日本大学大学院生  増田栞里
  • 宮沢賢治「銀河鉄道の夜」における「鳥を捕る人」の役割―モーツァルトのオペラ《魔笛》の道化役としてのパパゲーノを超えて―
      お茶の水女子大学大学院生  黄毓倫
B会場 東5-4教室
9:30~12:20
  • 連濁現象と格
      熊本県立大学大学院生  山下大希
  • 格助詞「を」の離点用法について―動詞の他動性の観点から―
      清泉女学院短期大学講師  佐藤友哉
  • 手塚治虫漫画・アニメ作品場面の画像と心象言語解析―『火の鳥』を中心に、四三二作品全貌に迫る―
      駒澤大学名誉教授  萩原義雄
  • 猫と坊っちゃん―明治期の言語生活と作品キャラクター
      和洋女子大学名誉教授  岩下裕一
12:20~13:20

休憩

13:20~15:30 

国際特別企画

  • 日本語の身体的比喩表現―ベトナム語との対照を通して―
      和洋女子大学大学院生  グェンダン ホァイリン
  • 『唐話纂要』「常言」における『水滸伝』出典の三十四箇条について―『通俗忠義水滸伝』との対照分析を中心に―
      創価大学助教   耿蘭
  • 菅江真澄による東北地方への知識の伝播― 手段としての歌会を中心としたネットワーク―
      Ecole Pratique des Hautes Etudes – Paris Sciences Lettres大学院生   ローラ・アニエル
16:20~16:50

A会場 東5-2教室

  • 研究発表奨励賞:黄毓倫氏(お茶の水女子大学大学院生)

             

閉会の辞 和洋女子大学准教授  佐藤淳一