第132回 令和7年度 冬季大会
開催日・会場
令和7年12月13日(土)・14日(日)・15日(月)(15日の文学実地踏査は各自・各グループでお回りください)
武庫川女子大学 中央キャンパス(〒663-8558 兵庫県西宮市池開町6-46)
○会場とZoomによるハイブリッド形式で行います。 アクセス
大会案内・要旨集はこちらからダウンロードしてください⇒ 第132回大会案内・要旨集
*申込み締切:12月1日(月)→12月5日(金)まで延長します。
大会プログラム
大会シンポジウムテーマ
地域文化の継承と享受──学習・読書・出版文化
各地域にのこされた史資料には、その地域の社会・経済の実態がうかがえるものだけでなく、文学碑や旧家にのこる蔵書、往来物としてのこる教科書など、時期や地域によっては多様に保存されてきている。例えば、これらから、その時期以前の文学作品がどのように享受されてきたのか、国語をどのように学習していたのかなどをつぶさに観察でき、さらには、蔵書をめぐるその地域の人びとの関わりまで紐解かれることもある。
これらは、その当時の地域文化の継承と享受の実態を具体的に把握する上でも好個の資料群である。近年、資料整理や翻刻、調査・分析等、研究成果の蓄積、公開が進みつつあり、これらの調査成果が各地域・時代における文化の継承と享受の実態解明に新たな可能性をもたらしてくれると思われる。
本シンポジウムでは、文学、語学と教育、地域史等の異なる領域の知見を集積しながら、地域文化の継承と享受を考える上で、これらの史資料をどのように位置づけ、分析していくことができるのか、新たな視点からその可能性を探っていきたい。
コーディネーター/司会 武庫川女子大学文学部歴史文化学科准教授 井上幸
第1日 12月13日(土)
11:00~12:00
代表委員会 文学2号館5階 L2-53教室 キャンパスマップ
12:15~12:45
委員会 文学2号館5階 L2-53教室
12:45~
会場 文学2号館1階 L2-11教室
受付(Zoom開場 13:00~)
13:30~
開会
学会代表挨拶 明治大学教授 小野正弘
会場校挨拶 武庫川女子大学学長 髙橋享子
13:45~13:50
趣旨説明
コーディネーター/司会 井上幸
13:50~17:50
シンポジウム
古典和歌による地域振興・地域保全――万葉歌碑など――
武庫川女子大学文学部日本語日本文学科教授 影山尚之
故・犬養孝の揮毫になる万葉歌碑がいまや一四一基を数える。犬養自身の意思というよりは、師を慕う人たちの強い願いによって日本各所に設置され続けるのだが、最初の碑は昭和四十二年十一月、明日香村甘樫丘中腹に建立された。時代は高度経済成長期のさなかであり、歴史的景観を留める地へも次々に開発の波が押し寄せ、ついに甘樫丘上にホテル建設の計画が持ち上がったという。犬養万葉歌碑はかかる暴挙を抑止する意図を蔵していた。
こんにち、明日香村を訪れる人々のうち歌碑に高い関心を示す人は限定的であろうが、観光客向けイラストマップの類にはきまってそのマークが記されてあり、碑を背景にして写真撮影する光景が見られもするので、故地散策にあたってのひとつの有効な道しるべとなっているのは確かだ。世界遺産登録を目指す同村にあっても万葉歌碑はアピールの要素の一つであると聞く。地域文化の保全と活用、ひいては地域振興に寄与するところがあるとするなら、犬養の遺志はそれなりに継承されている。
本報告では、会場校の立地する阪神地域に点在する万葉歌碑を糸口にしながら、地域社会における古典和歌の利活用について考えてみたい。歌を碑に刻んで設置するに際しては、歌内容の吟味はもとより、該当歌に対する歴史地理的考証が不可欠であり、古典和歌研究者に関与の余地があるとすればその点にあるだろう。また、「地域版百人一首」と呼ぶべき撰歌集がいくつかの地域で作成されている。報告者自身が関係した事例を含め、ここに紹介してその問題性について寸考する。
地域史料にみる書籍の出版・流通――福崎町三木家・懐徳堂を中心に――
神戸大学大学院人文学研究科地域連携センター学術研究員 石橋知之
日本では17世紀以降、本屋による商業出版が隆盛した。書籍は三都(京都・江戸・大坂)の本屋仲間を中心とした商業出版によって膨大に生産され、広く社会に流通した。次第に本屋は地方城下町をはじめとした列島各地で営まれるようになり、18世紀後半から19世紀には広域的な書籍流通網がみられるようになったといわれる。
しかし、書籍の流通環境は日本社会全体で一様であったわけではない。書籍の享受者が置かれた地理的条件や居住地域の本屋の営業状況、多様な人間関係に基づく入手経路(貸借・筆写)など、様々な要件の下で各地各様の書籍入手のあり方が展開していた。 このため、書籍流通や本屋経営の実態を解明するためには、各地域に残る旧家の史料群から書籍購入・貸借の記録類や蔵書目録、そして蔵書そのものなどを分析する必要がある。近年、そうした各地の事例分析は蓄積されつつあるものの、今なおほとんどの地域では十分に研究されていない現状にある。
また、江戸時代は自由な出版・流通を許された社会ではなく、幕府による本屋への統制や取締りによって制限されていた。そのため出版されず写本として流通する書籍も多数存在した。しかし、幕府の出版統制は時代によって変遷するものであり、必ずしも統制の引き締め一辺倒であったわけではなく、天保改革期には部分的な規制緩和の動向もみられた。支配権力側の動向が出版・流通にどれほど影響を与えたか、という点もまた、近世社会における書籍や本屋の歴史的位置を探るために解明すべき課題の一つである。
以上の問題意識のもと、本報告では現兵庫県福崎町に所在する旧家三木家に残る史料群を分析対象とする。天保・安政期の同家当主通深は大坂の懐徳堂に入門し、同舎を主宰した中井竹山・履軒兄弟の著書を多数収集していた。その中には『逸史』や『草茅危言』等、従来は出版統制に抵触したが、天保期以降に出版された書籍を含んでいる。限定的な写本流通から合法的な出版流通への転換期に、大坂の学問文化がどのように地域社会に広まったのかを捉える試みとしたい。
地域の言語文化形成の背景――往来物から考える――
武庫川女子大学文学部日本語日本文学科教授・弘前大学名誉教授 郡千寿子
歴史学の小川剛生氏(慶應義塾大)が「往来物は文化史研究では等閑視されてきた」、国文学の母利司朗氏(京都府立大)が「往来物版本は非文学資料という性格上、等閑にふされてきた」(科研費データベース)と述べるなど、研究分野によっては往来物はあまり注目されてこなかった。往来物は、寺子屋などで手習いのために使用された教科書の類であるが、江戸時代には多種多様なものが出版されている。実生活にどのようにそれらの資料が関わっていたのかの具体像を探ることを目的に調査をすすめてきたが、その一端を紹介することで地域文化の継承と享受を考えることにつなげたい。
東北の秋田県立図書館所蔵の往来物は、関西から距離的に遠いにも関わらず、江戸に比して大阪や京都出版の資料が多数であった。山形の酒田光丘文庫所蔵の往来物も京都・大阪といった関西出版が多く、内陸の弘前や山形との違いが顕著であった。秋田も酒田も日本海沿岸に位置し、江戸時代に興隆した日本海航路、北前船の寄港地である。北海道や東北の鰊や昆布といった海産物等を関西に運んだ北前船は、関西からは書籍といった教育資源や文化を日本海沿岸にもたらしたのではないか。
江戸時代のこうした地域間交流の影響は、当時に限らず現代とも無縁ではない。往来物に記載される「女性ことば」について抽出整理してみると、使われなくなった語例もあれば、今なお継承され一般語となった語例も存在する。往来物は、文化遺産として大事に保存されてきたものでなく、実際に使われ消耗された資料群である。それゆえに庶民生活に根差した言語文化への影響は小さくなかったのではないか。
本報告では、地域に残存する資料の偏在および記載された「女ことば」の変遷事例を紹介し、言語文化形成の背景を考える試みとしたい。
16:30~16:50
休憩
16:50~17:50
共同討議
第2日 12月14日(日)
9:00~
受付(Zoom開場 9:15~)
9:30~15:55
研究発表会 A・B 2会場
A会場 文学2号館5階 L2-51教室
9:30~12:30
- 「三輪の殿」の「朝戸」「殿戸」を「開く」――『日本書紀』歌表現の問題として――
同朋大学専任講師 山﨑健太 - 敏達紀から崇峻紀にかけての皇位継承をめぐる記述について
お茶の水女子大学大学院生 大熊かのこ - 『枕草子』「二月、官の司に」章段における清少納言と藤原行成のコミュニケーションの特殊性
フェリス女学院大学大学院生 小野結菜 - 『源氏物語』「澪標」巻の「御子三人」予言について――紫上と明石の姫君との関わりをめぐって――
九州大学大学院生 高恩娥
12:30~13:45
休憩
13:45~15:10
- 『夜の寝覚』第一部における女君の〈病〉試論――現代の診断基準を手がかりとして――
早稲田大学大学院生 前田みどり - 横笛「柯亭」伝承の位相と漢故事受容
大阪公立大学客員研究員 妹尾恵里
B会場 文学2号館5階 L2-52教室
9:30~12:30
- 短歌の記載形式論
青山学院大学大学院生 松本瑞紀 - 〈侵入〉と〈揺らぎ〉――上田杉子『坩堝の中』における表象――
一橋大学大学院生 大瀧夕 - 坂口安吾「村のひと騒ぎ」論――安吾初期作品と落語に着目して――
明治大学大学院生 金井雅弥 - 円地文子「猫の草子」を読む――芸術を懐疑する芸術家――
成蹊大学大学院生 寺田峻
12:30~13:45
休憩
13:45~15:55
- 多和田葉子の文学における能――『うろこもち/Das Bad』を中心に――
中山大学講師 邢亜南 - 村田沙耶香『コンビニ人間』における歪んだ語りの翻訳
専修大学大学院生 渡邉ゆりか - 近代文学における色彩語の使用――「外来語の飲食物名+いろ」に注目して――
桃山学院大学教授 村中淑子
16:20~16:50
A会場 文学2号館5階 L2-51教室
研究発表奨励賞授与式
大会運営委員長挨拶 武庫川女子大学准教授 井上幸
閉会の辞 明治大学教授 小野正弘
参加方法
参加希望者は、下記参加フォームより申し込んで下さい。非会員の方もシンポジウム・研究発表会に参加できます。
*12月1日(月)までに申し込んで下さい。→12月5日(金)まで延長します。
- 申し込まれた方には、大会の数日前に、メールにて参加のための情報をお伝えします。
- 大会に参加されるにあたって、発表要旨、オンラインで使用するスライドや動画、配付資料等の著作権は、発表者に帰属します。録画、録音、断りのない再配布、二次利用は禁止とします。
大会参加(オンライン参加含む)情報
大会に参加する方は、メール(大会数日前に送信)でお伝えするパスワードにて、下記 大会特設ページ より、参加方法・資料などを御確認ください。
*大会特設ページは大会数日前に開設する予定です。
大会特設ページ