特集原稿募集

機関誌『文学・語学』第243号・中世小特集原稿募集のお知らせ〔2024.11.16〕

[会員限定]

『文学・語学』では以下のような趣旨で投稿論文を募集します。締切は令和6(2024)年11月30日、掲載は第243号(2025年4月刊行予定)です。多くの投稿をお待ちしています。

投稿要領はこちら

古典文学と挿絵・絵画

 世界を駆け巡った新型コロナウイルス感染症の流行は、研究の場を大きく変化させました。あの頃、情報通信技術の発展の恩恵を被らなかった研究者は、おそらく世界中に一人もいなかったことでしょう。全ての図書館が閉鎖されたあの頃、多くの人がオンラインアーカイブの存在に感謝したはずです。そして人文情報学(デジタル・ヒューマニティーズ)にすべての文学・語学の研究者が携わる時代が到来しました。

 古典文学研究の分野で注目したいのは、何と言ってもデジタル画像の活用です。くずし字解読システムのリリースなどの後押しもあり、国内外に眠っていた古典籍の多様な本文や図像の全貌を一望することが可能になってきています。

 例えば、国会図書館デジタルコレクションやジャパンサーチで『平家物語』を検索すると、古活字版や各種の絵入り版本、また浮世絵や近代の絵本などの高精細画像が検索結果に表示され、たちどころに挿絵や絵画も含めた長い古典の享受史が立体的に浮かび上がります。

 中世文学の研究では、説話やお伽草子、寺社縁起の絵巻、あるいは軍記物語といったジャンルを中心に、物語の絵画化に関する研究が持続的になされ、着実な成果が重ねられています。その結果、絵巻や奈良絵本、絵入り版本といった挿絵を伴う文学では、絵と言葉の関係を問いながら作品を「読む」という研究視座が確立しました。挿絵はもちろん、様々な絵画メディア研究への取り組みは、美術史学や歴史学との協同や連携に繋がりました。絵を「読む」ことは、古典文学研究の枠を確実に拡げ、中世文学のみならず、文学研究の基本的な視座として定着したように思われます。

 今回の小特集では、デジタルアーカイブの時代をむかえ、文学と挿絵、あるいは文学と絵画の関係について、これまでの研究視座や方法をふまえ、新たな課題や今後の展望を共有することを意図しています。

 デジタル画像資料の拡充は図像の比較対照を容易にします。本文と挿絵双方に注目した表象分析にも新しい成果が期待できるでしょう。また、従来の研究ではまだ言及されることが少ない、色彩や構図を分析する試みもでてくるかもしれません。

 詞書や本文についても、書風の検討がこれまで以上に進むでしょう。古典籍のデジタル化は、言葉や文字が本来そなえている可能性をあらためて見出す契機となるはずです。

 文学と挿絵、あるいは絵画メディアの関係が、どのようにあったのか/向かうのかという問題意識を共有しながら、古典文学の研究・教育の未来の可能性について探っていきたいと考えます。諸分野からの意欲的な投稿をお待ちしております。[『文学・語学』第241号掲載]